『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その6)

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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その6)です。
 

7. 時代にマッチした道具を持つ

 
 駅で切符を買うにも、いまは自動券売機になっています。デジタルデバイトと言って、慣れない人は差別されるのです。切符を買うにも指定券を買うのにもずらっと並ばなければならなくなります。実はたいていのものは自宅からネットで買えます。時代にマッチした道具を持つということで、すくなくとも都会に住むからにはそういう機器に慣れなければいけないでしょう。道具を使いきろうという姿勢が必要です。
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 このことは、『坂の上の雲』の中で、清国海軍に関する描写で語られています。清国海軍は最新鋭の定遠、鎮遠という戦艦をドイツから買いました。ところが、ハードウエアだけを買い、それを使う仕組み、つまりソフトウエアは旧態依然のままだったのでうまく使えるはずがありません。定遠、鎮遠が日本に来て、威嚇するために見学させますが、砲塔の周りで裸の水兵が洗濯物を干すなど規律の無さが著しく、これでは組織的な軍隊活動などできるわけがないと東郷は見抜くのです。いくら上等なハード、つまり戦艦を持っていても清国は勝てないだろうとの確信を深くするのです。
 
 道具はやはりハードとソフトの両方がそろって初めて役にたつものです。どういう仕組みや役割分担があってというソフトを清国は輸入しなかったのです。つまり、ハードは最新式を入れてもソフトをおろそかにしたからまるで使いこなせなかったのです。
 
 もうひとつ『坂の上の雲』の中に、「36式無線電信機」の話があります。トンツーの無線通信機です。松山市にある坂の上の雲ミュージアムには、このレプリカが置いてあります。これは日本の国産機で明治36年に完成しました。それで36式と呼ばれます。秋山真之は、これが艦隊運動に非常に大事だと直観し、すぐ全艦船に装備し徹底的に訓練しました。将校をあてて通信機を使いこなすためのリーダーにしました。それで、旗旒信号*に頼らなくても自由にコミュニケーションがとれる強力な手段を手に入れることができました。
 
 注 * それぞれの意味を持つ旗を準備しておき、それで命令を伝えます。艦船間の命令・連絡に使われました。
 
 ロシア艦隊には無線機について真之のような感覚はなかったようです。それでもロシアの巡洋艦ウラルには、マルコーニ社製の強力な無線機がありました。これは日本の36式の性能をはるかに超えていて、700マイルも届く当時としては世界一の性能だったのです。これがあれば、日本艦隊の通信を妨害することができたのです。ただ、それもやっていませんでした。
 
 ロシア艦隊を発見してから、日本の索敵専門の巡洋艦は、その進路をずっと無線で連絡し続けます。その間、ロシア側は妨害電波を一切出していないのです。妨害電波はロジェストウェンスキーが出すなと禁じました。それで日本側は自由にコミュニケーションが取れました。妨害電波がなかったことについて、日本側は天佑だった、天の助けだったと感じたようです。たぶんロシア軍将校の中にも、これは使いこなしたほうがいいと考えた人はいたと思いますが、ワンマン提督のロジェストウェンスキーに提案したら怒鳴られると思ってやめたのかもしれません。巡洋艦ウラルにあった性能世界一の無線機も宝の持ち腐れだったのです。つまり、組織のトップに新技術に対する興味や関心がないと負けてしまう実例です。
 
 大きな目的は何か、自分に与えられた使命は何か、これを問い直すことによって、いまのやり方が適切か、時代遅れでないかの判断ができます。「あ、こういうのを使わなければいけない」とか「こんなやり方ではダメだ」との発想につながるのです。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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