MTシステム超入門(その13)
50.人工知能としてのMTシステム
先日打ち上げに成功したイプシロンロケットのセールスポイントは、「MTという人工知能」の活用による低コスト化です。有力な研究者がMTシステムを人工知能として位置付けたのは、初めてのことではないかと思います。競合技術がニューラルネットなどの人工知能であることは事実ですが、T先生自身がそのように明言したことはありません。 「知能」ですから、人間がやっている判断や予測(異常の予知)を代行する役割を担います。MTの特徴は“未知で経験のない異常に対する感度の良さ”であると言えます。
51.人工知能の学習データ
一般に人工知能では「学習データ」と呼ばれる、コンピュータに覚えてもらうデータ群を準備します。 郵便番号読み取りの場合であれば、0~9の10通りの数字パターンです。機械や装置の検査・診断であれば、正常状態のデータと異常状態のデータです。正常データを集めることは一般的には簡単です。ところが、異常状態のデータを揃えることは、実際には相当に難しいことです。 製品の取扱説明書などには、「よくある質問」が記載されています。これは、パターン化された不具合や操作上の過誤を列挙した記事です。しかし、そこに記載されていない不具合もたくさんあります。製品はいろいろな環境で使用されますし、使い方もさまざまありますから、めったにない異常や経験したことのない異常も発生します。また、出荷時に原因を内在したとも言える製品不具合もあります。気づいたときはリコールとなります。
人工知能に与える「学習(教師)データ」に、ありとあらゆる異常状態を含ませることは、ほとんど不可能です。 ボールベアリングなど歴史ある工業製品のように、ほとんど完全に故障モードが分類できるものもありますが、新たに開発される複雑な製品で異常の網羅は無理です。ですから、人工知能に「こういう故障を覚えてね」と言っても、それ以外の故障には無反応になる危険があるのです。
52.技術者は故障を追いかける
・医者は病気を追いかける
・技術者は故障を追いかける
これは、T先生がよく話されていたことです。どちらにも疑問を持っていたようです。病気も故障も防いだり治したりすべきことですが、それらだけを追いかけるのでは効率が悪いと考えていたのでしょう。 そして、「幸福な家庭、すなわち一様な状態とM距離」が結びついたのです。まず原点を定めること、次に原点からの距離を測ること。それが病気や故障への正しい対応のための一番良い方法だと閃いたのだと思います。
製品でも人間でも正常な状態が一様と言えることが多いでしょうから、正常だけを学習させれば、覚えた以外の状態を見たとき、コンピュータは「正常とは違う」と言ってくれるはずです。 違うということがすなわち異常とは限りませんが、実際には異常であることが多いでしょう。「違うよ」と出てきた時に、「では、どこが違うの?」と尋ねることが出来て、「ここです」と応えてくれれば、私たちはそこに集中して解析を進めることができるわけです。
53.原因診断という便利な仕組み
正常とは違うという結果が出たとき、MTシステムは「この項目がおかしい」と言ってくれます。 例えば装置のセンサー情報が100項目あったとき、5番目と20番目と75番目の項目がいつもと違う、と言ってくれるのです。それが分かれば、容易に対策をとることができます。MTシステムは、値の大小だけではなく、値のバランス崩れも検知します。こうした仕組みを持たせたことが、M距離をより実用的な価値ある手段にしています。
MTシステムで「ここがおかしい」と言ってくれる機能を持たせたことは、実用面で大きな意味を持っています。 「いつもと違うよ→どこが?→ここです」までの回答を出してくれるからです。ニューラルネットワーク(ANN)などの人工知能では、1995年当時はそうした発想があまりありませんし、むしろどのように賢いANNを作るかに興味の中心がありました。T先生が、MTシステムに診断機能も含めたのは、達見(達人の見識)と言えます。
(図は、多数の項目の中で異常原因が赤い丸印3か所にあることを示しています)
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